インサイドキックのTPOについて

インサイドキック

個人スキルをどう捉えていくか

サッカーのトレーニングを行う中で、皆さんはどんな立場でしょうか?選手の方もいれば指導者の方もいると思います。トレーニングを構成する際に、チーム全体(11人)の課題か、5人以上の課題か、それ以下の人数の課題か、個人的な技術のトレーニングか、とりあえずゲーム形式のこともあると思います。今回は個人的な技術について改善を求めるには、どのようにアプローチしていくかを考えていこうと思います。

個人的な技術と「タレント」の違い

メッシやクリロナ、個人で試合の局面をひっくり返してしまうような選手はどんな風に完成されたのでしょうか?指導者がとびきり優秀だったのでしょうか?普通に考えたら、あのようなレベルの個を育成で導くことは困難だと思います。彼らは彼らのスペシャルな要素をいくつも持ち合わせていて、誰もが真似できるわけではないレベルへ到達したのでしょう。むしろスカウティングを褒めるべきだと思います。そして指導ではなく、その才能を見抜いたという意味で育成部門が優秀であると言えます。

今回お話したい個人的な技術は、そういった「タレント」要素ではなく、「基本として抑えておきたい技術」に関してです。正しい指導メソッドや、選手の理解、適切なフィジカルトレーニングや身体の使い方を学習することで改善できる能力です。チーム全体として機能する面白さもありますが、蹴って、止めて、ドリブルをする。ボールと触れ合う技術は、サッカーの面白さの根幹だと思います。ですが、このような基礎的な技術がうまくいかないと、選手はすごいストレスを溜めることにます。

ユースチームやレベルの高いチームでは、ある程度個人技術が高いか、フィジカルがそこそこの子が揃っているでしょう。その中で戦術理解度の高い選手がレギュラーになっていくかもしれません。指導者の方は、時間のかかる個人の指導に多くを費やすことよりは、チーム全体のトレーニングを行うことが優先されると思います。限られた時間の中で、個人の技術が伸びない選手に手を入れるのは非常に大変でしょう。ですが、だからといって個人の技術に介入しなかったり、何も技術をチェックする術がないのは心苦しく感じると思います。

選手もそうでしょう。パスミスが続く。練習しても練習してもうまくいかない。なぜ早くパスが蹴れないのか、キックが飛ばないのか、誰も教えてくれない。ひたすら蹴るしかない、僕もそうでした。「正しい技術」「その理論」があれば、もっと次のレベルへ進むことができたのではないかと。

戦術的局面 TPOはあっているか?

インサイドキックの個人的な技術を実践レベルで有効な段階まで引き上げるために、「正しい局面で正しいチョイスを考えて行わせる」必要があります。

インサイドキックは大きく分けて2種類のキックがあります。「パター型」と「膝下型」です。それぞれのキックは特徴があって、「どちらが悪い」ということはありません。悪いのは「局面と合っていないこと」です。ではその局面を説明していきます。

パター型と膝下型の「助走」

以前インサイドキックについてまとめた記事があります。その中のパター型と膝下型について視覚的にまとめたのがこちらの内容になります。インサイドキックは「助走の向きを変えないで蹴れる方向」があります。そこに合わせた蹴り方が出来る身体能力があるか、状況に応じた使い分けが出来るか、それを自分で理論的に理解出来ているか(もしくは無意識的に理解出来ているか)が鍵になります。パター型が悪であるとか、膝下型が良であるとは一概に言えません。ただパス自体の質は明らかに異なるので、局面に合ったチョイスが出来ること、それに合わせたリスクを負えるか考えていることが重要です。

ドリブルの向き、身体の向き、パスの方向

もっと実践に即した場面で考えてみましょう。こんな感じでカットインしている場合に、パスの選択肢はパター型で真正面か蹴り足方向(右)に出すか、膝下型で軸足方向(左)に出すかになります。

助走の向きは本来ボールを運ぶ方向と一致している方がスムーズです。そのため、カットインに合わせたスムーズなパスチョイスは上の動画のパターンが適切であると言えます。

パター型と膝下型の特性を理解すること

ここで考えておかなければいけないのは、パター型自体は膝下型と比べるとパスの質は(身体の向き、パススピードなど)落ちるということです。これは良し悪しではなく事実です。もし右方向(蹴り足方向)に蹴りたくてカットインしているのであれば、このような環境下でこの方向に蹴る場合はインターセプトの危険があると認識しておく必要があります。逆に左方向にスペースを作ってそこにパスを出したいと考えているのであれば、この状況はベストパフォーマンスを出せると言えます。助走(カットイン)の方向とパスの方向は一致せず、モーションは小さく、パススピードも追求できるからです。あえて言えばカットインの方向とパス方向が反対方向の場合は方向転換の技術も必要ですが、それでも非常に良い状況であると言えるでしょう。

左サイドに右利きの選手がいる場合の優位性は、このような点もあると言えます。常に左方向へ質の良いパスが提供できるのです。

パター型のパスも試合では使われる

11:41〜の香川のカットインからのパター型スルーパスを分析してみましょう。香川選手が右サイドから中央に向かってカットインしていきます。つまり左へカットインしていきます。このドリブルによってディフェンスラインはやや右方向へ誘導されていきます。香川選手は左へドリブルしながら、ゴール真正面に近い方向へ向かってパスを出します。この時香川選手は右足でパター型のインサイドキックをチョイスしています。

質を求めるのであれば、膝下型がいいはずです。ですがこの局面で右足で膝下型のキックを行うには、一度止まるか方向転換して、右方向へ身体の向きを変える必要性が出てきます。そんなことしたらタイミングが合いません。もしくは左足を使って蹴るのであれば膝下型のチョイスも可能になります。このレベルであれば左足でも十分な技術はあると思いますが、香川はわざわざそんな真似をしません。結果的にはこのパススピード、モーションでもパスは通りますしフィニッシュまでバッチリタイミングが決まります。(これはパスではなくフィニッシュが悪かったです)

パター型のキックの質でも、モーションやパススピードが十分でインターセプトに合わず、かつタイミングが合う(結果的にはこのパススピードくらいが合わせやすかった)条件を満たせば、このパスの質で良いのです。

闇雲にパスを行なっても試合では生きない

例えば動画のような局面でインサイドキックがうまく出来なかった時に、どのようなアドバイスや修正トレーニングが必要でしょうか?パス練習でしょうか?壁に向かってインサイドキックをしてもいいかもしれませんが、自己満足で終わるかもしれません。ただパスミスを咎めても、選手もかわいそうです。カットインの判断は正しいかどうか、その上で何が原因でうまくいかなかったかが重要です。

極端に言うとこんな局面の練習内容にしてしまった方がまだ実践的です。この方向からカットインしてインサイドキックを右足パター型で行うのは、結構な身体能力が必要です。身体能力と身体の使い方は以前の記事でまとめてありますのでそちらをご覧ください。片足立ちチェックしましょう。コーディネーションの低さ(要は慣れていない初心者や、小学校低学年の場合)が原因のこともありますので、似た局面でたくさん練習することも重要です。

個人技術は改善できる

プロの中でもスーパースターみたいな選手を真似る、それは悪くないかもしれませんがサッカーの面白さを体感するには適切な「サッカーの技術」を習得することの方がいいかもしれません。

サッカーに関する理解があってプレーの良し悪しがわかること、身体の使い方や解剖学、運動学などにも精通していることがこの辺りには必須なのではないかなと最近は考えています。普通そんな人いませんけど。

いかがだったでしょうか?当ブログではできるだけご本人に役立つものを提供できるよう、わずかながら実践できる運動まで合わせて紹介できる、実践型のブログを目指していきます。ぜひご興味のある方へのご紹介などよろしくお願いいたします。

こっちにもう少し詳しく書いてあります。ぜひご覧ください。

インサイドキックのトレーニングに必要な知識 理論編10000字

2018年7月5日