トラップの基礎 足部の脱力

サッカーの技術

脱力や衝撃吸収は必要か?

結論としては必要ありません。少なくとも足首で行う必要はありません。

  1. 実際に足部を脱力しているように見える動画が少ない
  2. 関節の構造や筋肉の性質的に効率的とは言えない
  3. 実際にサッカーの中で使用することを想定すると、脱力するのは効率的でない

といった点が挙げられます。

実際の足でのトラップ

いくつかトラップの瞬間を集めてみました。

スローやコマ送り、静止画にすると、足は脱力しているのではなく、「筋肉によって固定されている関節が衝撃を受けて、一瞬たわんだ」ように感じませんか?

イメージとしてはこんな感じがします。「内返し」「外返し」といった言葉で運動を説明してみました。これが実際のプレーでは「柔らかく使っている」ような雰囲気で観察されるのかもしれません。ボールの勢いが物凄いのに、ぴったり足元に収まる。実際に収めた瞬間は魔法のように見えるのかもしれません。

関節の構造や筋肉の性質的に効率的とは言えない

おそらくトラップする際に「たわんで」いる関節はこの「距腿関節」です。臨床的にも画像のような挙動が出来る関節はこれしかないかなと感じます。細かく関節に関する考察をすることもできますが、それはまた別コラムでやりましょう。あまりこの関節を脱力することはよろしくありません。この関節は「足首を上に反っている時」に安定する関節だからです

この左側を内返しと言います。この「内返し」の状態では、距腿関節は実は不安定なポジションにあります。ポイントはこの図の中にある「底屈」と「背屈」です。この二つの運動は、構造上ほとんど距腿関節で生じます。そして、距腿関節は本来であれば背屈位で安定すると言われているポジションです。上述の「足首を上に向けた時」は「背屈」を指します。力が入っていない状態で腿上げのポーズをとると、足首は底屈位になります。重力によって前足部が地面方向に引っ張られるためです。この状態では足首は安定しておらず、筋肉による固定が必要になります。ではどのような筋肉が必要なのでしょうか?

 

 

距腿関節は「距骨」と「脛骨」、「腓骨」から構成される関節です。距腿関節をコントロールする場合、足部はこの足根骨を筋肉で引っ張って圧迫することで足を随意的に「固く」していると考えられます。本当は距骨に筋肉をつけて安定させれなよかったかもしれませんが、神様はなぜか距骨につく筋肉を作りませんでした。そのため、距腿関節を安定化させるために距骨の先にある足根骨を経由した安定化をはかっています。

この固定化された状態を、「Closed Packed Position」と言います。固定している筋肉は、「前脛骨筋」「後脛骨筋」といった筋肉です。この状態の関節は圧迫されることで構造的に安定することが可能になります。

歩行時では、地面に踵を接地する瞬間を「Heel Contact」とよびます。この瞬間の衝撃を一瞬受け止めるために足部を固定して安定化させます。その準備をする時の足首を固定させる方法が、前脛骨筋の収縮です。

トラップする瞬間の足首の固定の仕方は、このHeel Contactの準備と似ています。いくつか足部を固定する方法はありますが、それは主に足部を地面につけている時で、このように空中で足部を固定する方法は前脛骨筋と後脛骨筋の同時収縮によるものであると考えられます。

これらの構造上の特徴を考慮すると、足部を脱力してボールを受けることは障害予防的にもパフォーマンス的にも今ひとつの可能性があります。(そもそも、足を脱力して衝撃吸収することでボールを受けているシーンをあまり見かけませんでした。)

サッカーの中で脱力するのは効率的でない

プレー中はあまり足首を脱力できません。なぜならプレー中はトラップしながら走り出したりしないといけないシーンがたくさんあるからです。その時足はすごい力を受ける上に、内容的にはつま先立ちが必要な場面がほとんどです。つま先立ちは足部底屈位です。底屈位は足部が不安定で、筋肉による安定化が必須です。トラップの時だけ脱力、着く瞬間だけ力を入れて固定では大変でしょう。筋肉はある程度活動させておいて、トラップにも接地して走行にも使える足部にしておく方が効率的なのではないでしょうか。

関節は固定し、筋肉で衝撃を吸収する

足のトラップはこんな感じです。もしかしたら脱力してトラップする方法もあるのかもしれません。ですが実際のプレー動画の中であまり見かけないということは、構造・機能上のメリットとサッカーのプレーとしての本質がマッチしていないということではないでしょうか。トラップをする前後の動き、特にコントロールオリエンタードに必要な能力が他にあることを考えると足部の脱力があまりプレー上みられないことは当然かもしれません。

他の部位でのトラップ、コントロールオリエンタードに必要な能力についても今後の続報をお待ちください。