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インステップキックの第一関門
サッカー初心者を悩ませるのは、足首の固定です。実は足首の固定自体は、それなりに経験を積めば困ることはない身体の使い方だと思います。
実際、小学校高学年以降で足首の固定ができていない選手はほとんど見かけません。ですが小学校低学年では、足首の固定が難しいようです。その結果随分キック能力に差が出てしまいます。そのためお悩みのサッカー少年の親御さんもいらっしゃるようです。
そんな足首の固定ですが、実際は全身の要素が重要なようです。特に軸脚との関係が強いようなので、その辺りとの関係も探っていきましょう。
足首を伸ばす
足首=距腿関節

足にはたくさんの関節がありますが、インステップキックに一番深く関係している関節は「距腿関節」と言います。この距腿関節は、主に「底屈」というインステップキックの時のような足首を反る動きをする関節です。
この足首を伸ばす動作は非常に複雑です。そもそもなぜこのように足首を伸ばさないといけないのでしょうか?
膝関節を効率よく使うため
膝関節は、ほとんど曲げ伸ばしの運動しかしない関節です。この膝の伸ばしをどれだけ効率よく使えるかどうかが全てのキックにおいて重要なポイントであると言えます。動画はインステップキック、つまり足の甲にあてています。
このようなインステップキックの場合、膝のお皿(膝小僧、膝蓋大腿関節)がボールの飛んでいく方向を向いています。このような場合はスイングの方向とボールが飛んでいく方向が一致しているため、余すことなくボールにエネルギーを伝えられます。
ですが、このように膝のスイングの効率を重視して蹴るには、インステップ(前)で当てるか、トーキックで当てるかしかありません。プロ選手がトーキックでロングボールやフリーキック、弾丸シュートを蹴ることはほとんどありません。理にかなわないからです。
足首を伸ばす運動(底屈)は、膝のスイング方向とボールが飛ぶ方向を一致させるために必要であると言えます。
最後に、違うアングルから同じ場面をみてみました。横から見てみると、インパクトの瞬間、ボールは軸脚より前方に位置しているようです。これではインステップにあてることはできません。中足骨のような足の先端で硬い部分にインパクトさせているのではないかと思います。 pic.twitter.com/GSQkuX0yoq
— Teppei (@deshi_football) August 16, 2018
このように意表をつく使い方はありです。
インパクト部位と膝の振り

インステップキックは図のように、足の甲(前)にバッチリ当てるパターンと、インサイドキックのような場所に当てる足の甲(横)パターンとがあります。
膝の振り(伸びる方向)と、インパクト部位にはどんな関係性があるのでしょうか?

膝を振る方向とボールが飛んでいく方向が一致している時は自然と足の甲(前)にボールがインパクトすることになります(図右)。
足の甲(横)の場合は、インパクトのために少し股関節の外旋という動きをします。これはガニ股のような動きです。インサイドキックをしようとすると、皆さんも自然とがに股になりませんか?
このがに股方向への動きによって、膝のスイング方向とキックの方向が少しずれることになります。
これは速度の面では効率を悪くしますが、FKのようにボールを変化させる場合は必要な身体の使い方です。必ずしも悪いものではありませんが、速いキックを蹴るための動きではないことを覚えておいてください。
膝を伸ばす方向とボールが飛んでいく方向を一致させるには、インステップ(前)でのインパクトが理想的です。
インステップは「緩みの肢位」

インステップキックは、内反捻挫という足首をグネッと捻る怪我と足首の肢位が似ています。
底屈位は解剖学的に、どんな人でも関節が緩んでしまう肢位なのです。その理由は骨の形態にあります。
足首の関節(距腿関節)を構成するうちの、距骨という骨(の距骨滑車という部分)は、少し前後で大きさが違っています。この大きさの違いが、足首の安定性を微妙に変化させます。

距骨の後ろ側、つまり幅の小さい部分は底屈位でくるぶしの間にハマるような構造をしており足首の中がスカスカになるイメージです。逆に背屈位(つま先を上に向ける肢位)では距骨の前側の幅が大きい部分がくるぶしの間にハマるため、中がギチギチになって安定する構造なのです。
ここは読み飛ばしても大丈夫ですが、理由を知った方が納得できる方向けに解剖学を少しだけ説明しておきました。
重要なのは、実はインステップキックの足は構造的に不安定で、キックのインパクトに耐えるには筋肉による固定が必要だということです。
底屈位で固定する筋肉

まずインパクトする部位付近に付着する筋肉は非常に重要です。前、後ろ、二つの脛骨筋は舟状骨という骨に付着する、足首の中では中々強力な筋肉です。
この筋肉の組み合わせが優れている点は、背屈(指を上に向ける運動)作用を持つ筋肉と底屈(指を下にむける運動)作用を持つ筋肉であるということです。
前脛骨筋は背屈、後脛骨筋は底屈の作用を持ちます。それぞれ反対方向の運動をする筋肉が同時に同じような力で収縮すると、関節は安定します。
ボールとインパクトすることで速度を得る、そのためには足首を固定する必要があります。この前、後脛骨筋が一緒に働くことが非常に重要です。
足首の固定をどう鍛える?
小学校低学年は何が違う?

以前、小学校低学年くらいだと結構足首に差があるという報告をしました。
まず、これはトレーニング云々よりもインステップキックが「人間が普通にする動きではない」ことが関係しています。これは訓練して覚える技能なのです。
動画を見るとお分かりになると思うのですが、ヒトの歩行中や走行中で、膝をスイングする(前に振り出す)時に足首を底屈(インステップキック)させるパターンがないんです。もし底屈させてたら、足が床に引っかかって転んでしまうからです。
そのため、「足を底屈位で素早くスイングする」パターンを覚えなければ小学校低学年ではキックがうまく蹴れずに、足首は背屈位のままになってしまうようです。
ですが、そのパターンは足首だけではなく、全身が関わるようです。
全体が鍛えられれば足首も付いてくる

以前、軸脚を傾けられないとインステップキックはボールに当たらないことを報告しました。
インパクトがうまく出来ない選手を観察すると、まず軸脚がまっすぐである場合が多いです。
このような場合はそもそも「足首を地面にぶつけずにスイングする」ことが難しいため、足首を背屈してしまっていると考えられます。キックする足首の固定が弱かったり下手だったりするのではなく、軸脚を斜めにできないのかもしれません。
違うことから導入する


サッカーはとにかく脚を斜めに差し込むことが多いスポーツです。これはサッカーは方向転換の要素が大きいことを意味していています。キックも助走を斜めに入って減速、加速をする方向転換の一種です。インステップキックがうまくできない選手は、いきなり足と決め込まずに方向転換やボールコントロールの練習を行うことで全身の協調性が養われます。もちろん足部自体のコントロールも大切な要素ですが、年代的なことを考えると「足首の固定」のためのトレーニングよりボールに触りながらバランスを養う方がいいかもしれません。
まとめ
足首の固定のトレーニングよりも、方向転換の練習などで軸脚のコントロールを鍛えつつキックの練習を同時並行して行うといいかなと思います。
なお、足首の固定はむしろ怪我で障害されることが多いため、中学〜大学生向けに怪我に関することを追記する予定です。
ここからスイングする脚全体のこと、軸脚、上半身と発展して応用編に向かいます。