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足首が動かないと…

サッカーのインステップキックで言う、「足首を固定すること」は、「距腿関節を底屈位で安定させること」です。
インステップキックはボールと足部の衝突なので、足首が安定していないとキックも弱くなります。
動きが悪い人はボールと足部をいいポイントで当てることができません。
つまり、底屈方向によく動き、そしてその位置で安定させられる筋力や靭帯の安定性が必要になります。
今回は足首の安定性に関して、怪我や障害がどのように影響するかを考えてみようかと思います。
捻挫から足部が不安定になる

サッカー選手にとって捻挫は避けようがない怪我です。その捻挫を繰り返すことで、距腿関節が不安定になることがあります。
一般的な捻挫は「内半捻挫(ないはんねんざ)」と呼ばれる足首を内側に捻ってしまうことで生じる捻挫です。捻挫とは靭帯損傷を言います。内反捻挫で痛める靭帯は、「前距腓靭帯」と言う靭帯が一般的です。
「捻挫は癖になる」と言います。
損傷した靭帯は必ず元の強度に戻るわけではありません。適切な診断がついて処置が行われないと、靭帯は元々のテンション(張り)を保つことができません。(適切な診断や処置があっても、不安定になることもあります。)
靭帯が緩むことで距腿関節が不安定になり、インステップキックの際も、何かしらの不安定感を生じるようになります。
靭帯は関節を安定させる

全て捻挫に関係する靭帯
筋肉は自分の意思で動かしたり、反射によって縮むことができます。
靭帯は自分の意思や反射で伸びたり縮んだりすることができません。ここが大きく違うポイントです。靭帯は自身の張力によって関節を安定させています。

左は外側から、中央は後ろから、右は内側から足を見ている
靭帯によって関節が安定しているため、筋肉が効率よく働き関節をさらに強く安定させることができます。
靭帯を損傷することで関節が不安定になり、主に骨や軟骨に何かしらのストレスがかかります。
インステップキックが出来なくなる
足首の不安定性を抱えたままプレーをしているうちに、いつの間にか足首の動きが悪くなっていることがあります。
インステップキックの時の足首の動き(底屈)をしてみると、左右差が生じている。底屈ができないと、足の甲にしっかりボールが当たらない。
このように、いつの間にか強くインステップキックでインパクト出来なくなっている場合があります。
三角骨障害の可能性
距腿関節が不安定なまま動き続けた結果、三角骨という余剰骨が出来てしまう可能性があります。
実際には三角骨という骨は存在しません。距腿関節が不安定な状態で動き続けることで、距骨の後関節突起という骨の出っ張りが欠けてしまったり、過剰なストレスを受けて大きくなってしまうことで本来の底屈運動を邪魔するようになってしまいます。これを「三角骨障害」と呼んでいるのです。
骨が挟まって痛むので、ストレッチしても良くなりません。なおさら痛む場合もあります。
軸足で踏み込めなくなることも
蹴る方の足だけではなく、踏み込む方の足にも弊害を起こすことがあります。
捻挫によって生じる不安定性によって、足の後方を傷めるだけではなく、前方も傷めることがあるからです。
特に前方では距骨と脛骨がぶつかることで生じる痛みのため、思い切り踏み込めなくなることがあります。
「衝突性外骨腫」や「関節ネズミ」の可能性も

このような前方の挟まるような痛みは「衝突性外骨腫」が原因の可能性があります。
靭帯損傷の影響で、足首が不安定になり、少しずれた骨と骨が衝突してしまいます。最初は軽い痛みで済んでも、徐々に衝突を繰り返した結果、その部分の骨が大きくなっていきます。
これを「衝突性外骨腫」と言います。実際傷んでいくのは、骨そのものよりもその間で挟まれてしまう関節周囲の軟部組織です。
また、徐々に関節の変形が進んで行く内に関節の中に小さい骨が浮いてしまうことがあります。
この小さい骨は関節内を動いてしまうことがあり、たまたま挟まることで突然激痛が走ることがあります。これを「関節ネズミ」や「遊離体」と呼びます。
フットボーラーズアンクル
捻挫などをきっかけに、「三角骨障害」「衝突性外骨腫」「関節遊離体」に発展する、足首の怪我の最終形態です。
お話しした複数の怪我を同時に発症していたり、関節内の軟骨損傷を伴っていることもあります。これらはキックや方向転換をたくさん行うスポーツ選手が発症しやすいことから、「フットボーラーズアンクル」と呼ばれています。
実際、「強くキックができなくなった。」「なんとかサッカーは出来るけど、思い切りプレーができない」といった症状を抱えながらプレーしている選手をグラウンドではよく見かけます。
大学生や社会人選手に多い
捻挫を何度も繰り返したり、不安定性があるままプレーを続けることによって起きる病態なので、育成年代よりも社会人や大学生など、サッカー歴が長い層ほど多い疾患であると言えます。足首を痛めた経緯(現病歴)が長いのも特徴です。
実際には遊離体や三角骨障害でプレーに実害をきたす育成年代の選手もいます。重要なのは、身体所見や症状、医学的検査から今の症状の正確な診断をしてくれる医療機関を受診することです。
正確な診断
三角骨、外骨腫、遊離体は合併することが多い疾患です。三角骨と外骨腫は比較的身体所見や症状が特徴的で「見つかりやすい」疾患であると言えます。
遊離体は逆に、すごく小さい骨で見つかりにくいこともあります。小さい遊離体であっても、挟まれば強い痛みの原因になります。何かの拍子に関節の中を動くことがあるため、レントゲンやCTを一回撮るだけでは見つからないこともあり、この中では「気付かれにくい疾患」であると言えます。
つまり、「これは三角骨だな!」とか、「これが外骨腫だ!」とわかりやすい疾患ばかり気付いてしまい、遊離体のように気付きにくい疾患を見落としてしまうこともあります。そのため原因がはっきりわからずに症状が長引いてしまうこともあります。まずは正確な診断を行ってくれる医療機関への受診をお勧めします。
どうやって対処するか?
これらの疾患は、すべて「外科的な治療をしなければならない」わけではありません。
これらの疾患が見つかったとしても、全てが治療対象ではありません。プレー可能なレベルであれば、そのままプレーを続けることがほとんどです。
これらの怪我は「もうこのままじゃ満足にプレーできない」となってから手術を検討します。
基本的にはこれらの疾患はテーピングなどで対応する他、足部の機能訓練や(ストレッチや筋トレ)バランス練習、方向転換などのトレーニングを行います。
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とにかくまずは適切な診断につきます。トレーニングは病院で診察後、理学療法士の運動指導などを受けて下さい。