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琉球VS長崎 2019.06.29
上門知樹選手のトラップとステップワーク
なぜかJリーグ公式サイトでゴール動画が見つからない、長崎戦での上門選手のプレーを解説させていただきます。
特徴的な点はステップワークです。右足の使い方に着目してみようと思います。
トラップの基本は浮くこと
まず、トラップに関して重要なことから説明させていただきます。
この時の富所選手のトラップのように、トラップの時は浮く、もしくはそれに非常に近い状態になっていないといけません。
これは力積の考えからです。トラップはボールと人体の衝突です。衝突する人体が柔らかければ衝突している時間が長くなり、ボールは反発して遠くに転がることがなくなります。人体の硬さ自体は変わりませんが、トラップする足の関節の硬さや地面を踏ん張っている脚の硬さがない方が、ボールの勢いを吸収してくれます。
また、トラップした後はすぐに動けないといけません。つまり移動の一部として考えても「すぐ次のステップが出せなければいけない」と言えるでしょう。
トラップが上手い選手はみな、地面を強く踏ん張らずリラックスしています。
ですが、早く走ったり方向転換したりするには地面を強く踏ん張らなければいけません。早く走りながらトラップもうまく行うには、どうすればいいのでしょうか?
ステップワークを変化させる
ポイントはステップワークを変化させることです。スポーツのような早い動きの中では、だいたい両足が浮いている瞬間というものがあります。
つまり、加速したり減速したりするために踏ん張る時の合間の、「浮いている瞬間」をボールに合わせてあげます。
これがステップを変えるということです。では上門選手のステップワークの変化を解説します。
ランスピードとパススピード

この局面は和田選手と鈴木選手が横パスを繋いだ後だったんですが、上門選手の置かれている状況は決して良いとは言えません。敵DFの密度・距離感・限定されたパスコース・展開のスピードを考えると、このギャップを通して上門選手にパスを通るにはかなりのパススピードとなタイミングが要求されます。
結果、和田選手からはスピードのあるパスが来ます。たまたま両足が浮いている瞬間にトラップするタイミングが合い、そのまま通常のスプリントができればいいですが、そのたまたまを待っているわけにはいきません。
歩幅の変化とリズムの変化

ここでは強く右足を踏ん張り、固く使っています。早いパススピードに対応するために、左足を大きく前方に出しています。
ここは歩幅を大きく広げようとしていることがわかります。歩幅を変化させることは、サッカーの中では非常に重要なことなのです。


左足でボールをトラップする直前ですが、ここでトラップする左足だけではなく、右足も地面から離れます。このようにトラップをする時に浮いて衝撃を吸収する瞬間を作っているのです。

衝撃吸収が成功しただけではいけません。衝撃吸収後、ボールを自分のコントロールエリアに収めつつそのまま移動出来なければならないからです。トラップした左足で着地すると、その足でブレーキしてしまい加速できず動けなくなってしまいます。
そこで上門選手は、トラップした左足を接地する前に右足をもう一回動かしました。なんと右足でケンケンしているのです。これは右→左→右→左と、普通なら左右交互に行うステップワークを右→右→左と変化させることで、トラップ後もすぐに動き出せるような状態を作り上げたと言えます。


別アングルからも同じように右→右の順で地面を蹴る順番を変えていることがわかります。
歩幅やテンポ(ここでは足を出す順番)をボールに合わせて無意識に変化させることは、神経系的にも、筋骨格系的にもかなりの能力とトレーニングを必要とします。
コーディネーション能力やステップワークの練習は、育成年代で重要視されます。このような歩幅やリズムの変化が実際のプレーにもこのように関係すると分かれば、選手もなお練習に身が入るかもしれません。
フィニッシュもお見事でした。FC琉球はこの手の速攻やミドルレンジからの早い攻撃が少ない印象があります。河合選手のようなスピードやキレのある選手と、今回のような身体操作とフィニッシュを見せた上門選手が新たに攻撃のバリエーションを生み出してくれるといいですね。