イニエスタとポドルスキ Jリーグ初ゴールを身体の使い方から解説

GK

イニエスタのターン

実際のゴールシーン

2018/08/11 イニエスタ選手待望のJリーグ初ゴールは文句なしの神業でした。

反応

見事でした。岩政選手のおっしゃるとおりでして、身体の使い方に着目していただければなと思います。後半(持って生まれた〜)に関しては僕はわかりませんが、岩政選手は高いレベルでプレーを続けて、このような考えに至ったのだと思います。経験ってすごいものだと思います。

僕も理学療法士として自分の考えから「イニエスタのターンの身体の使い方が優れている理由」を解説してみます。

ポドルスキのパス

プレーの一連の流れとして、まずポドルスキ選手のパスについて優れている点があります。あのパススピードを生み出す身体の使い方を先に解説してみます。

カットインによって生まれた身体の向きの優位性

実際の局面はこんな感じです。左利きのポドルスキ選手が右サイドでカットインを行うことによって、左脚でゴール方向に向かってスピードのあるキックがけれる身体の向きの優位性がまず最初に発生します。

この身体の向きを作り出すことができれば、左利き(というか左脚で蹴る場合)の選手は身体の使い方的に「早く蹴れるキック」をチョイスすることが可能です。インサイドキックは、蹴る方向によって身体の使い方とキックの特性が異なる特徴があり、見た目上はこんな感じに見えます。(下の写真です)

よく「パススピードが出ない」「モーションが大きい」などと揶揄される、「パター型」のキックは右側です。「海外選手のキック」「インステップキックのような蹴り方」「膝下を振れている」と言われる「膝下型」のキックは左側です。一応ここでも触れておきますが、パター型は悪いキックの代名詞のようになっています。ですが実際のプロ選手のプレーでもたくさんみられます。実際はパター型のキックそのものが悪いのではなく、TPOに合わせたキックの使い分けのチョイスミスが問題だと考えています。

インサイドキックのTPOについて

2018年7月23日

インサイドキックのトレーニングに必要な知識 理論編10000字

2018年7月5日

詳しくはここにまとめてありますので、気になった方はぜひご覧ください。

キックまでの助走

ポドルスキ選手が優れていたのは、キックまでのドリブルや助走のコースです。敵DFがプレスに来てパスコースを切りにきています。もし、キックするために膨らんで助走を取らないと、スピードのあるキックが蹴れない、またはイニエスタの方向へ蹴れないといった身体能力の場合(股関節、脊椎の可動域制限、バランス低下、グローインペインやACL損傷後の膝など)であれば、DFに距離を詰められてしまいそもそもこのパスは成立しなかった可能性があります。これが今回のポドルスキ選手の身体の使い方に置いて優れているポイントです。

まとめると

  1. カットインからの身体の向きが良かった
  2. 適切なインサイドキックの蹴り方をチョイスした
  3. キックの助走が適切であった

このレベルの選手が身体の使い方が悪いことはそこまでないはずです。むしろちゃんと局面に合わせたプレーだったことがポドルスキ選手のプレーの良かった点です。

得点シーンの状況

まず局面の整理からいきましょう。まだ攻撃の基点では磐田のDFラインは安定してしています。ウェリントン選手がDFラインに突っ込んでいます。でかい。188cmより大きく見えます。

ポドルスキ選手にボールが渡った時には、ウェリントン選手によってDFラインはボール展開とは反対のサイドへCB大井選手が引っ張られてしまいます。神戸の4-3-3は左ウイングに古橋選手も待ち構えているため反対サイドに数的優位ができることが不快だったのかもしれません。ですがちょっとゴールとボールとの位置関係からすると危険なポジショニングです。

ポドルスキ選手がカットインした時にはこのような局面が完成していました。この間CB41番高橋選手は自分の後方のスペースを確認するアクションはみられないように見えました。イニエスタ選手はこの局面の時点で2回首を振って反対サイドを確認しています。なおイニエスタ選手はこのタイミングでかなり加速を始めました。もしかしたら高橋選手に首を振られても見えない範囲まで急いで消えようとしていたのかもしれません。

(図に記載はありませんが、イニエスタ選手が磐田のボランチと右サイドハーフの間にポジショニングをとっていたこともフリーになれた要因だと思います。神戸の上がってくる中盤のケアをどのように行う取り決めだったのかは僕もわかりません。)

DFラインの目線を振り切るためか、イニエスタ選手は若干早めにスペースへ到達します。ほんのわずかな時間ですが、実際加速した後にここで減速をしてタイミングを合わせています。ポドルスキ選手のプレーをみると、判断的にも身体の使い方的にも無駄なプレーはなかったと思います。そのため、イニエスタ選手が早くスペースに入ってしまったと考えていいかと思います。大井選手はケアへ向かいますが、ポドルスキ選手はキック体制、そして前述したクオリティでのパススピードに寄せが間に合いません。

このような局面で迎えたバイタルエリアでの1vs1です。まとめると

  1. イニエスタ選手はパスを若干後方(身体は外向き、ボールは右足)で受け取った。
  2. 敵DFとは距離がある。ターンは可能。敵は中から外前方に向かってきている。

この二つがターン前の重要なポイントであると考えられます。

ターン動作

イニエスタ選手がターンする瞬間をコマ送り(少しコマは荒いですが)にしました。ではどのような身体の使い方が優れているかを解説します。

左足に着目する

写真の①〜⑥をみてください。イニエスタ選手はボールをトラップする瞬間に足を浮かせています。トラップする瞬間に軸足を浮かす身体の使い方はかなり有名だと思います。(今まとめているところですので、例だけ紹介しておきます)

この辺りはトラップする時の衝撃吸収を、トラップする脚ではなくて身体全体の移動で行うことに役割があります。

今回のイニエスタ選手のターンの中で重要なことは、トラップではなくターン、方向転換の要素が含まれている点がポイントです。①〜⑥の間、つま先の向きがだいたい90度くらい変化するのがお分かりいただけますか?

同じ写真ですが、説明のためにこちらにもう一度掲載します。ほぼ踵しか見えていなかった状態から、つま先が横を向いているのがわかると思います。方向転換をする際に、もし足がベタッと地面についているとつま先の方向が変わりません。つま先が固定されている場合、股関節と体感だけで回旋の角度を出す必要があります。股関節と体幹を捻るだけでは、実際は90度も方向転換の角度は出ません。ですが、このプレーでは身体の向きだけをみていると180度以上のターンをしています。この軸足を浮かせた最中に、衝撃吸収と方向転換を同時に行なっているのがこのターンの身体の使い方の優れている点です。

それと、普通に片足ジャンプなんです。ステップワークも違うので、リズムがずれます。これにも混乱させられます。

ターン後の動作が早い理由

イニエスタ選手は⑨のサイドステップが非常にスムーズに行えています。ここが他の選手とは違ったため、特にスーパープレーになっていると思われます。この時のサイドステップのような脚を開いていく動きは、なぜ生じるのでしょうか?

左足の踵が上がっている

これは既に左足は強く踏ん張ったりしているわけではなく、もう動作が右足の支えや踏ん張りに移ったと見られるサインです。実際ではこの瞬間に右足は地面についていませんが、身体重心は既に次の進行方向へ移っていると考えられます。そのため次の動作が早いのです。

ではなぜ、こんなに早い身体重心の移動が可能なのでしょうか?

もう一つ、これは今回初めて見た身体の使い方だなと思うものを説明します。これが岩波選手の言っていたような「持って生まれた」身体の使い方かもしれません。

左足のつま先が上がっている

このシーンは前述の「踵が上がっている瞬間」より先行しておきています。番号でいうと②のあたりです。普通方向転換はつま先を地面につけて行うことが多いんですが、今回イニエスタ選手は踵がついている時から方向転換が始まっています。そして身体の大半の部分が接地面よりゴールの方向にあることから、重心は既にゴール方向へ加速されていると考えられます。そのため⑨の時には既に素早いステップワークができているのかもしれません。

このつま先が上がる現象は「背屈反応」とかも関係しているかもしれません。今度もう少し詳しく調べてみようかなと思います。

GKを躱した動き

この後イニエスタ選手はGKをさらりと躱してシュートを決めます。この辺の当たり前のプレイにもいくつかのGKとしての原理原則やイニエスタ選手の老獪なテクニックが潜んでいるようです。

ターン後の局面

ターンされた時点で磐田のDFラインは突破されてしまっています。イニエスタ選手はボールのやや右側に位置しているものの、体勢は保たれていてどんなプレーでも可能な状態です。控え目に言ってもサッカーにおけるこの状況は地獄です。イニエスタ選手には逆サイドでフリーになっている古橋選手へのパス、自分でシュート、ドリブルで躱す選択肢があるように思えます。ではGK目線でも考えて見ましょう。

ゾーンモデル

GKのゾーンモデルをわかりやすくまとめてくださっているRene Noricさんのtweetです。

現在カミンスキが置かれているこのゾーン2はローリングダウンやコラプシング、つまりmoving action(そこから移動して守備範囲を広げる動き)をしなくても守れる範囲ということになります。あんまり動かなくても、倒れたり手を伸ばせば守れる範囲だからあんまり動かなくていいぞ、ということです。とはいえ、オフェンスとGKに距離があればシュートの範囲は大きくなりますし、シュートスピードが早過ぎては反応が間に合いません。ですのでカミンスキ選手はゴールラインくらいまでイニエスタ選手との距離を詰めるためのMovementをします。かっこよく言いましたが、前に出たってことです。

だいぶシュートアングルが狭まった感じがします。ですがこの時、さっきまでボールの右側にいたはずのイニエスタ選手は既にボールの左側にいます。この間に何かがおきたようです。実はこのタイミングでは既にイニエスタ選手は縦への突破を開始しています。

後の先でのマシューズフェイント

これはカミンスキが前に詰めてきている間にイニエスタが行なっていた動きです。いわゆる、「マシューズフェイント」みたいなものです。一度腕を高くあげて、左足を強く踏み込んでいます。そして身体の分節を下げて加速の準備をしています。これから縦に抜くぞってことです。

この写真は腕を挙げてくるところまでのイニエスタ選手です。カミンスキ選手はこの間前につめてきているわけですが、その挙動をずっと見ているということです。ちょっと怖いです。カミンスキ選手が詰めてきたのを見て、「前に引き出すのに成功した」と思ってるかもしれません。単純に後の先で、距離を詰めたカミンスキ選手に対応しただけかもしれませんが。結果的にイニエスタ選手はゾーン1へアタックします。

本来このゾーン1は、GKは前に出ないでそこに立って構えてろと言われます。アングルがないため、反応出来れば構えて取れてしまうわけです。むしろそこから動いたりするので失点することもあるくらいです。結果的に今回はゾーン2からの侵入者(イニエスタ選手)に対しカミンスキ選手が対応して前に出た結果、さらにそれを利用されてゾーン1への突入されてしまったといえます。やはりターンした時点でかなりイニエスタ選手に有利な状況が出来上がっていたわけです。

おわりに

身体の使い方を解説するにあたって、どうしても戦術的要素や試合局面の理解が必要になるなと感じて色々勉強しています。姿勢や身体の使い方が理想的であることと、サッカーの現実は少しズレがあると感じることもあります。どちらも理解した上で、身体の使い方を解説できればなと思っていますので、興味のある方はぜひフォローをお願いいたします。